新しい定性調査に関する情報マガジン バックナンバー vol.65

2018年の定性調査キーワードは「スピード」

年頭に当たり、今後の定性調査はどうあるべきかを考えてみました。今、我々定性調査関係者が置かれている現状はどのようなものなのでしょうか。

 
 
「市場調査業界は、デジタル消費者の台頭により大きな打撃を受けている。 企業がますます消費者中心のアプローチを採用するにつれ、消費者インサイトチームは、経営陣から、非常に短期間で、データに基づくインサイトを得ろという絶え間ないプレッシャーをうけている。 これは、従来の市場調査会社が対応できない分野であり、企業はDIY技術を採用し自分たちでリサーチを行うようになりつつある。その結果、インフレーションにもかかわらず業界がグローバルで2%しか成長していない。従来型調査会社は成長するというよりは業績を維持することに苦労しているのは皆さんがご存知の通りである。」
 
 
これは米国調査会社Ugam Solution のアシスタントヴァイスプレジデントJitesh Marlecha氏の分析です。クライアントサイドではスピードの要求が高くなり、従来の調査会社はついていけていないという分析ですが、皆さまはどう思いますか。Marlecha氏はグローバルの状況に関して述べていますが、我が国においてもあてはまりつつある状況ではないでしょうか。
 
 
2018年を迎えた今、定性調査会社に求められているのは何でしょうか。これからの定性調査会社、そして定性リサーチャーはどうあるべきなのでしょうか。その中で浮かび上がってくるキーワードは「スピード」のようです。
 

今クライアントが重視するのはスピード

「発明考案にしても、人より一分でも一秒でも早ければ、特許になる。すべてスピードじゃないですか。だから、スピードを否定したら、発明的創意工夫もないし、そこにウィットもないはずです。」

 
これはホンダの創業者本田宗一郎氏が残した言葉です。
 
 
昔から多くの経営者は経営にはスピードが重要だと唱えてきました。また、昨今隆盛を誇るIT業界においては、特にスピードを重視する企業が多いようです。なぜ、多くの経営者はスピードを重視するのでしょうか。
 

ある記事の中でマクロミルさんを創業した杉本氏の言葉が紹介されていました。杉本氏は経営においてスピードが重要な理由をとてもわかりやすく、明確に説明してくれています。

 

「ここにカードが5枚伏せてあって、その中の1枚が当たりだとします。そんな状況で、必ず当たりを引く方法があるんですよ。何だと思いますか?カードを人の5倍の速さで全部めくるんです(笑)。結局、事業は“やってみなければ分からない”もの。新規性が高いものは、なおさらです」

 

この記事を書いたジャーナリストは

 

「杉本氏が言いたいことは「失敗を計画に内包せよ」ということなのだろう。逆に、最初から正解を求めようとすれば、他人がつくった正解の公式を利用するしかない。だが、ビジネスの世界、特にネット業界では大抵一番手が勝つ。だから、生き残るには新しい何かにいち早く挑戦するしかない。すぐに手をつけ、カードをめくってから考え、暗中模索していくことが正解への近道なのだ。」と分析しています。

 

「当たりを見つけるために、少なくとも外れのカードを見つけるためにリサーチがある」と言って欲しかったという気持ちも無きにしも非ずですが(笑)、とても納得させられました。

 

米国の定性リサーチャーMonica Zinchiak氏は現在のリサーチ業界の置かれている現状を以下のように分析しています。

 

「マーケティングリサーチがビッグデータに置き換えられると信じられていた日は過去のものになりつつある。企業には、莫大なセカンダリーデータやオペレーショナルデータが日々蓄積されている。それによって企業は様々なビジネス上の問題や機会を発見することができるようになった。しかしながらそれは問題や機会の発見までに留まる。成功するために重要なのは、戦略やイノベーションによって、その問題を早急に解決して、機会を捉えることである。なので、企業のマーケティングチーム、イノベーションチームにとって最も重要なことは新製品やサービス、コミュニケーションプログラムを構築し最適化するスピードが重要なのである。」

 

我々リサーチサプライヤーにとってのクライアントはスピード競争の真っただ中いるのです。その競争は今後益々激しくなっていくでしょう。そのようなクライアントに対応するためにリサーチ会社には何が求められるのでしょうか。クライアントのスピードに対応できるリサーチサービスを提供することだというのは言うまでもありません。

 

こらからリサーチに求められているのはスピード

繰り返しになりますが、我々クライアントはスピード競争の真っただ中にいます。それに対して、今のリサーチ会社が提供しているリサーチサービスはクライアントの経営上の、またマーケティング上の意思決定スピードについていけているのでしょうか?また今後益々早まるであろうスピードについていけるのでしょうか。

 

皆さまご存知のようにリサーチ業界はインターネットリサーチの登場によって大きな変化が起きました。インターネットリサーチの登場によって、定量調査のスピード、特にデータ収集に関わるスピードは著しく短縮されました。私がこの業界に入った時、訪問面接調査の実査を1ヵ月かけて実施するみたいなことはあたりまえでした。しかしながら、今はネットリサーチで同じ規模のサンプル数からのデータが極端な場合は一晩で集まります。ネットリサーチがここまで大きく伸長したのは、もちろんコストの部分も大きかったのでしょうが、このスピード感・・・クライアント企業の経営やマーケティングのスピードアップに対応していたということも大きかったのではないでしょうか(もちろん、設計や分析・レポーティング等の部分でまだまだ進化の余地はありそうですが)。

 

一方で定性調査はどうでしょう。

 

現在定性調査で主流の会場で行うグループインタビューやデプスインタビューを考えてみると、リクルーティングに2週間、実査に数日、分析報告に2週間といったように、データ収集開始からデータが使用可能になるまでに1ヵ月以上かかるのは当たり前です。これまではそれでもよかったのかもしれません。しかし、このままで、今後、益々早まるであろうクライアントの経営上/マーケティング上の意思決定スピードについていけるのでしょうか?今後、クライアントの意思決定スピードが速まるにつれ、定性調査は使えないリサーチサービスになってしまうことは容易に推測できます。

 

では定性調査がクライアントの意思決定スピードに対応するためにはどうすればよいのでしょうか。定性リサーチャーが徹夜をして納期を短縮するというのは賢い解決策ではありません。それには限界があるでしょうし、定性調査業界を今以上にブラックな業界にしてはいけないですね(笑)。

 

その答えはテクノロジーを利用するということです。先に述べたMonica Zinchiak氏は今後定性調査に導入されるであろうテクノロジーの3つの分野を挙げています。

 

定性調査をスピードアップする3つのテクノロジー

以下にMonica Zinchiak氏の書いた

 

Three New Qualitative Research Technologies That Will Change Marketing and Innovation
マーケティングとイノベーションを支える3つの定性調査テクノロジー

 

という記事の抜粋を紹介させていただきます。

 

 

+++++抜粋はここから+++++

 

定性リサーチャーの我々は近年地殻変動を感じているのではないだろうか。我々は消費者の生活が急速に進化していることを目のあたりにしている。そして企業はよりアジャイルリサーチを進化させることによって、生活者に急激な進歩に対応しようと奮闘している。

 

次々と迅速にイノベーションを生み出す企業は、新製品や新サービス開発においてアジャイルな開発手法を取り入れており、あらゆるステージで適切かつ迅速な消費者フィードバックを取り入れながら開発を進める。このアジャイル開発においては消費者の深い理解と迅速なトライアル&エラーの反復が重要であり、その点でクイックに、複雑さを簡潔にし、迅速な意思決定をサポートする定性調査テクノロジーに対して極めて大きなニーズがあるのである。

 

そのような中で今後定性調査の価値を上げ、マーケティング/イノベーションチームに消費者インサイト提供するための大きな変化をもたらすのは以下の3つのテクノロジートレンドであろう。

 

#1 Automated Micro-Targeting(自動マイクロターゲティング)

 

今普及しているオンラインコミュニティは特定のターゲットに迅速にアクセスできるという大きなメリットがある。 一方で、多くの利用企業はコスト、サンプルの多様性、品質、バイアス等の問題のため、オンラインコミュニティの実施や維持に苦労している。

 

しかしながら新しいテクノロジーは、定性調査会社にオンラインコミュニティ並みのスピードかつ低料金でターゲットにアクセス(リクルート)できる方法を提供しつつある。例えば、いくつかの定性リサーチ会社は、リクルーティングのためにFacebook、Instagram、LinkedInといったSNSを活用しつつある。これらのSNSサイトでは、従来のリサーチパネルより、対象者に関する豊富で最新のバックグラウンドデータがある。そしてソーシャルメディア技術を活用することによって、調査会社はターゲットのリクルート期間を大きく短縮することができるのでトライアル&エラー型の反復調査が可能となる。

 

また、大規模なリサーチパネルを構築している調査会社はリクルートのオートメーションに取り組みはじめている。このオートメーションテクノロジーが進化することにより、我々は適切な調査対象者を迅速にリクルーティングすることができ、それはアジャイルな定性リサーチを可能とする

 

#2 Virtual-Assisted Design and Data Collection(調査設計とデータ収集のバーチャルアシスタント)

 

オンライン上での定性調査の現在の最大のチャレンジは、消費者理解のための適切なデータをどのように収集すべきかということであろう。サーベイ形式の質問がよいのか、ビデオを収集するのがよいのか、近年はチャットボットのようなインタラクティブなダイアログを作成するといったオプションも生まれつつある。

 

これまでの定性調査はカスタムリサーチであり、専門の定性リサーチャーやモデレーターが調査を企画・設計するのに数日から数週間を費やしてきた。 しかし、現代のテクノロジーは定性調査から設計という概念を無くし、質の高いデータを迅速かつ簡単に収集できることを可能にしつつある。 例えば定性リサーチャーは、事前に用意されたデスカッションガイドのテンプレート・データベースから必要な質問を選び出し、それをビデオやテキスト形式の質問に組み合わせインタビューを自動化するといったことが始まりつつある。

 

このように自動化、かつパターン化されたインタビューは従来の定性インタビューよりも分析が用意であり、かつ分析が自動化しやすいことは言うまでもない。それは個々の対象者のストーリーをより深く理解できることにもつながるのである。自動化されたツールは、定性的なデータ収集と検証の手作業を排除する。 最先端のプラットフォームは、自動的に対象者の回答が質のよいものであるかどうかをチェックし、よくなければ再依頼を行ったり、質がよければ謝礼を自動的に支払ったりもする。バーチャルアシスタントやチャットボットの登場により、定性調査の自動化のためのプラットフォームはこれからもより進化し続けるであろう。

 

#3 Smarter Reporting Automation(スマートなレポーティング自動化)

 

これまで定性データから消費者のインサイトを抽出することは、手作業で行われてきた。 リサーチャーは何ページにもわたる発言録をコーディングしたりや長時間のビデオを見直して分析を行っていたが、それではクライアントのアジャイル開発のペースにはついてはいけない。

 

現在の定性分析プラットフォームは、自動タグ付け、自然言語処理、感情分析、テキスト分析を利用して、その定性リサーチにおける重要なポイントを自動的に見つける機能を提供しつつある。また、調査で取集された重要なビデオや写真、対象者の発言を調査関係者の中で簡単に共有できるような機能も有している。

 

このような重要ポイント発見の自動化と共有ができるプラットフォームは、関係者間での意思決定を容易にかつスピーディーにすることを考えれば意思決定にスピードを求める企業が放っておくわけはないであろう。

+++++抜粋はここまで+++++

 

海外においては、このような技術が進歩しつつあるようです。日本においても#1に近いものはすでに登場していますね。#2や#3に関しては、私の知る限り実用に耐え得るものはまだないように思いますが、登場するのはそれほど遠くないのではないでしょうか。

 

これからの定性調査会社と定性リサーチャー

最後に、これまでの議論を踏まえてこれからの定性調査会社また定性リサーチャーはどうあるべきなのかという点について考えてみたいと思います。

 

まずはJitesh Marlecha氏が提言している「これからの定性調査会社が生き残るためのキーポイント」として挙げている5つの項目を紹介します。もちろんそのキーワードは「スピード」です。

 

  1. 専門性/ユニークさ

    これからの調査会社は一般的な市場調査サービスを提供するだけではもはや十分ではない。クライアントを引き付けるためには、ユニークなテクノロジーから収集された様々なデータを組み合わせてユニークなファインディングスを提供するといった専門性が必要である。また成功する企業はある業界に特化していて、他には真似のできないその業界のデータの蓄積がある企業である。今後有望なスタートアップ企業は、ニッチな分野でビジネス展開をしていて投資家を引き付けることができる企業であろう。
     
  2. 買収

    多くの大企業は買収によって、専門性を磨いてきた。ユニークな企業を買収することによって、ユニークなポジショニングを築いてきたのである。これからは中規模で特徴のない調査会社は生き残りに最も苦労するであろう。彼らはニッチなマーケットもニッチな事業展開をする他企業を買収するリソースを持っていない。また、彼らは外注を利用するのではなく、すべてをインハウスで行おうとする。それは、利益を圧縮し将来有望なユニーク分野への投資ができないことを意味する。
     
  3. 非コア機能のアウトソーシング

    これは調査会社が身軽となりベストな分野に資源を集中することを意味する。彼らはコアの部分以外は信頼できるパートナーに任せる。アウトソーシングするのはリサーチのオペレーションに関わるすべての分野、データ収集、データ集計、プロジェクトマネジメント、分析・報告であり得る。テクノロジーの進化によってクライアントがインハウスでリサーチをすることが可能になりつつある。彼らはインハウスのリサーチを調査会社から提供されるサービスと自社内でできることを常に比較をしている。なので、調査会社はコアに磨きをかけてインハウスでは得られない価値を提供しなければならいのである。なお、この価値を生むということに関しては、リサーチのオペレーションの部分にそれを求めるべきではない。クライアントは通常オペレーションの部分より、リサーチの専門家としての部分に価値を求める。
     
  4. 新しいテクノロジーの採用

    かつてリサーチは「nice-to-have(ないよりはあったほうがよいもの)」として考えられてきた。しかし、今はすべてのビジネス意思決定はデータとリサーチに基づいて行われる。GoogleやAmazonといったテクノロジーの巨大企業は製品やサービス開発のすべてのステージでリサーチを活用する。しかしそれは従来のリサーチ手法や分析を超えたものである。日々、新しいテクノロジーが登場しているが、それは顧客や従業員、ブランド経験に関するデータを収集するのみならず、インサイトに基づくアクションプランを提供するものでもある。新しいテクノロジーの採用が遅い調査会社はクライアントのニーズについていくことはできない。そしてクライアントからふるいにかけられ淘汰されていくであろう。

     
  5. スピード(納期の短縮)

    今、調査会社は価格とスピードに関してクライアントからかつてないほどのプレッシャーにさらされている。それは他には真似できないユニークなサービスを提供する会社さえである。多くの場合、彼らはこの問題に対してテクノロジーのインフラや技術を持っていたり、柔軟なオペレーション組織を持っていたり、24時間サービスや、グローバル対応を提供できるサプライヤーとの戦略的パートナーシップを構築することによって対応している。今、世界中のリサーチ会社は停滞している。逆に停滞していないリサーチ会社は、スピード、価格、ユニークさにおいてクライアントに価値を提供している企業である。

 

ということで、今後リサーチ会社が生き残るための鍵として、ユニークな存在であるであることと同時に新技術の導入とスピードを重要なポイントとして挙げています。
 

また、Monica Zinchiak氏は定性調査会社と定性リサーチャーに対して、以下のような提言をしています。

 

「現在の定性リサーチャーは今後新しいテクノロジーを積極的に取り入れて行く存在なのであろうか。これまでの歴史を振り返ってみると、(定性)リサーチ組織は新しいテクノロジーに対してのlate adoptorのように思える。定性調査会社の多くは自分の会社の存在意義を、消費者の意見に基づきクライアントの意識決定の際のリスクを減らすことだと唱えている。しかしながら「安全」というワードは現在のテクノロジーが存在しなかった時代にのみ有効だった概念ではなかろうか。

 

今後定性リサーチャーが定性調査はアジャイルに対応できるものであるということを証明できなければ、定性調査の価値や利用シーンは減り続けるであろう。私はこの記事を読んでいる多くの読者が現状を突破し、定性調査が変わらなければいけないということに目覚めて欲しい。そして、よりクイックに、より柔軟に消費者インサイトを得るツールを利用することによって利用者の迅速な意思決定に役立てるようになってほしいと思う。

 

皆さまはMarlecha氏とZinchiak氏の提言についてどう思われますか。両者は、今後の定性調査会社やリサーチャーが重視すべきことはスピードだと主張しています。ただ、繰り返しになりますが、それは定性リサーチャーに徹夜をしろという話ではありません。これからの定性調査会社や定性リサーチャーは上手くテクノロジー(これは、AIやAutomationと言い換えてもよいかと思います)を取り入れてクライアントの意思決定のスピードについていくことができるかどうかがが生き残るためのポイントのようです。

 

今回の記事は以上となります。

今年もよろしくお願いいたします。

 

 

 

※ 今回参考にした記事

Three New Qualitative Research Technologies That Will Change Marketing and Innovation
マーケティングとイノベーションを支える3つの定性調査テクノロジー

 

Market Research Firms Fight to Survive: Top 5 Ways MR Firms are Overcoming Challenges
リサーチ会社が生き残るための5つの方法