新しい定性調査に関する情報マガジン バックナンバー vol.74

そのコンセプトテストが
クライアントのイノベーションを殺す(かも)

このメルマガをお読みの多くの方は毎日あたりまえのようにコンセプトを評価するネットリサーチの調査票を作ったり、コンセプトシートをブラッシュアップするためのグルインのフローを作り、それらの結果の分析をしたりしているのではないでしょうか。

 

私も、このようなコンセプトテストに日々関わっておりますが、最近、コンセプトテストに対して以下の2つの疑問を持つようになりました。

 

【疑問1】

行動経済学によると人間の意思決定の多くはシステム1(速い思考=直感的処理)に支配されていると考えられている。しかしながら現在のコンセプトテストはシステム2(遅い思考=分析的処理)による評価を得るものになっているのではないだろうか。それでコンセプトの将来性を正しく予測することができるだろうか?

 

【疑問2】

現在のコンセプトテストは、クライアントが考えたイノベーティブな製品アイデアを殺してしまうのではないだろうか?

 

皆さまは普段当たり前のように行っているコンセプトテストがクライアントのイノベーションを殺している可能性があると考えたことはありますか?もし製品化されていたら人々の生活を変えるような画期的なイノベーションだった製品のアイデアが、あなたが実施したコンセプトテストによって殺されてしまっていたのかもしれないということを・・・

 

今回は、現在行われているコンセプトテストの問題点について考えてみました。

コンセプトテストとは

最初に一応コンセプトテストとは何かを書いておきますが、多くの方には釈迦に説法なので、必要ない方は、このセクションは読み飛ばしていただければと思います。

 

コンセプトテストとは・・・

「新商品や新サービスを市場に出そうとする際、どのような商品コンセプトにするか、事前に複数のコンセプトを提示して消費者の反応を調査するテスト」(マクロミルさん:マーケティングリサーチ用語集より)

 

です。また

 

「コンセプトテストは開発された多くのコンセプトのスクリーニングとスクリーニングされて選ばれたいくつかのコンセプトのうちポテンシャルの高いもの1~2点に絞る、コンセプトの選択・決定のステージがあります。前者は定性調査か定量調査あるいはその両方のアプローチが考えられますが、後者は定量調査です。」(楽天インサイトさん:三木康夫によるマーケティングリサーチ概論より)

 

さらに、テストされるコンセプトには製品コンセプトと広告コンセプトの2種類があります。

  • 製品コンセプト:製品の特質を絵や文章で説明したものが「製品コンセプト」です。新製品を開発する最初の段階では、まだ実物は試作されていなくて製品コンセプトのアイデアがあるだけです。それを対象者に提示して、そのような製品がもし将来発売されたなら「買いたいか」などを質問します。
  • 広告コンセプト:広告する場合に、商品のセールスポイントや、重点的に伝える特徴、利用してほしいシーンなどを説明したものが「広告コンセプト」です。テストではいくつかの候補案のどの表現が、広告を通じてターゲット(広告がねらう対象者)によく伝わるかを明らかにします。
    (インテージさん:マーケティング用語集より)

 

なお、本記事では、主に製品コンセプトについて議論させていただきます。それを踏まえてお読みください。

コンセプトテストにかけるコンセプトシート

さて、このコンセプトテストですが、テストされるコンセプトシート(コンセプト文)はどのような内容がどのよう形式で記述されているべきなのでしょうか?

 

私は、様々な調査会社様のお手伝いをさせている関係上、様々なカテゴリーの、様々なコンセプトシートを目にする機会があるのですが、コンセプトシートの作り方は会社様によって多種多様なようです。長い文章 vs. 短い文章、画像が入っている vs.入っていない、そしてどのような内容(インサイト、ベネフィットetc. )が書かれている vs. 書かれていない等々・・・。

 

例えば、以下にネットリサーチに使用するために準備された3つのコンセプトシートの候補があります。リサーチ会社の方は、クライアントから、「この3つのコンセプトシートのどれを調査にかければよいの?」と聞かれたらどのように答えますか?

 
P
Q
R

※ こちらは後述するBrinJuicer社のWebinar内のスライドを私が日本語に翻訳させていただいたものです。
※ これは英国マーケットに向けたコンセプトです。(信じられませんが)英国ではビールは冷えていないのが普通なのだそうです。

 

多くの皆さまがPを選ぶのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 

今回、この記事を書くにあたって、「調査のための正しいコンセプトシートの書き方」をネット上で探してみたのですが、なかなか見つかりませんでした。その中で、JMRAが過去に発行していた今は無き「マーケティングリサーチャー」に記載されていた「調査にかけるコンセプト文の作り方/留意点」という記事を見つけました。JMRA発行の機関紙に載っているくらいなので、これが我が国のコンセプトシートのスタンダードだと考えてよいでしょう。

 

この記事の中で、コンセプトシートの主要構成要素は

  1. インサイト:ターゲット消費者の「こうしたい/こうなりたい」といった気持ちやニーズ
  2. ベネフィット:上記のニーズを満たすために、その製品が提供できるソリューション
  3. RTB(Reason to Believe):その製品が、上記ベネフィットを提供できる根拠・理由

であるとあります。このことから考えると上記の3つのコンセプトシートの中で調査にかけるべきコンセプトシートには、この3つの要素が含まれているPを選べということになるかと思います。私もリサーチにかけるコンセプトシートにはPのように「インサイト-ベネフィット-Reason to Believe」が必要だと習ってきました。もっとも、私も、この記事を書かれた阿部氏同様にカンターで習ったのでそれは当然なのですが・・・

 

さて、このPのようなコンセプトシートを用意して、定量的/定性的に対象者の反応を探り、その将来性を見極めるというのが現在のリサーチ業界で実施されている一般的なコンセプトテストかと思います。私も、これまであたりまえのようにそのようなリサーチを実施してきました。ただ、最近、このようなコンセプトテストは、本当に正しいのか、すなわち、「その製品の将来のポテンシャルを正しく予測できるのか」ということに疑問を持つようになりました。

現在のコンセプトテストに対する2つの疑問

冒頭に書かせていただいたように、私は、最近、現在のコンセプトテストについて、2つの大きな疑問を持つようになりました。その疑問についてもう少し詳しく書かせていただきます。

 

【疑問1】

行動経済学によると人間の意思決定の多くはシステム1(速い思考=直感的処理)に支配されていると考えられている。しかしながら現在のコンセプトテストはシステム2(遅い思考=分析的処理)による評価を得るものになっているのではないだろうか。それでコンセプトの将来性を正しく予測することができるだろうか?

 

ノーベル賞を受賞したカーネマンが、2012年に出版した「ファスト&スロー」はリサーチ業界でも大きな話題になったのでご存知の方も多いと思います。この著書の中でカーネマンは人間の脳には2つの思考があると唱えています。一つが「速い(ファスト)な思考」、もう一つが「遅い(スロー)思考」。カーネマンは前者を「システム1」、後者を「システム2」と名づけました。

 

では、実際の消費者の購買行動はシステム1とシステム2のどちらに支配されているのでしょうか。これについて、何らかの研究結果やデータがあるのかは知りませんが、自分のことを考えてみると、多くの場合はシステム1に支配されていると感じています。もちろん、これは個人差があるでしょう。また、それ以上に商品カテゴリーによっても大きく異なると思います。そこで以降の話はリサーチ業界で最も調査が多いFMCG系の商品カテゴリーの話を想定してお読みいただければと思います。

 

例えば、残業で遅くなった帰り道、家で飲むためにビール買って帰ろうと思いコンビニに立ち寄った際に、皆さんはどのように銘柄を選ぶでしょうか。私は「いつも買っているからこれにしよう」、「昨日CMで見たな・・・」、「おっ新製品だ、試してみようか」くらいな感じのように思います(それも、よく覚えていないというのが正直なところですが・・・)。じっくりと時間をかけて、すべての銘柄に関してパッケージに書いてある情報を見比べて、「これは●●製法だからこれまでにないのど越しを実現したのだな、こっちは▲▲製法でキレがあるのか・・・」といって選ぶことは(たまにはあるかもしれませんが)ほとんどありません。

 

このように消費者の購買に関する意思決定は「直観」、「感情」、「感受性」、「無意識」といったシステム1に支配されることが多いのにかかわらず、現在、リサーチ業界で行われているコンセプトテストは定量、定性にかかわらず「論理的」、「理屈」、「客観的」、「意識的」といったシステム2による評価を得るものになっているように思えるのです。それで、コンセプトの将来性を正しく測ることができるのでしょうか? 

 

続いてもう一つの疑問です。

 

【疑問2】

現在のコンセプトテストは、クライアントが考えたイノベーティブな製品アイデアを殺してしまうのではないだろうか?

 

日本ではよく知りませんが、海外では” Focus groups kill innovation”という言葉が存在します。そしてこれを唱える人はほとんどと言ってよいくらいにスティーブ・ジョブスの有名な言葉を持ち出します。

 

「フォーカスグループによって製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分が何が欲しいかは分らないものだ。」

 

リサーチ不要論と結び付けられて語られることが多いこのジョブズの言葉ですが、言うまでもなく、リサーチには例えばあるカテゴリーの消費・購入実態を把握するリサーチや、既存製品の問題点を探るといったような様々な目的のリサーチがあります。そこで、この言葉は

 

「(定性・定量に関わらず)コンセプトテストによって製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分が何が欲しいかは分らないものだ。」

 

と言い替えるとよりジョブズの意図が伝わるのではないでしょうか。ジョブズの有名な言葉は「定性、定量にかかわらず一般人に新商品のコンセプトを評価させる類のリサーチは役に立たない」という主張なのだと思います。

 

※ ただし、この言葉がリサーチ不要論に結び付けられがちなのは、リサーチユーザーにとってはそれだけ商品開発に対するリサーチへの期待が大きいという現われだともいえるのでしょうが・・・

 

Continuum社というデザインファームの創設者のGianfranco Zaccai氏は「Why Focus Groups Kill Innovation, From The Designer Behind Swiffer」という記事の中でこう語ります。

 

「スティーブ・ジョブスの有名な主張のように、真のイノベーションは消費者の中に潜んでいる(顕在化されていない)満たされていないニーズを見つけ、そのニーズを満たすためのクリエーティブな解決策をデザインすることから生まれる。しかしながらグループインタビューは、この顕在化されたニーズを見つけることはできない。その理由は単純でほとんどの人は実際に体験するまで、その満たされていないニーズに気付くことができないからだ。グループインタビューは既に存在する製品やサービスを改善するのには役立つ。しかしながら対象者は、本当に画期的な今までになかったようなコンセプトに対しては、単に見たことがない、なじみがないといった理由だけで疑いや疑念を抱くのだ。」

 

皆さんは、どう思いますか。クライアントから、「グループインタビューやネットリサーチでコンセプトシートを評価するようなテストの結果は信じられない。一般人に見たこともないものを評価しろといっても出来るわけないだろう!」といわれたら、どのように反論しますか?

 

ちなみに、話は少しそれますがGianfranco Zaccai氏は記事のタイトルになっているようにP&G社のSwifferというお掃除用製品の開発に関わったデザイナーだそうです。このSwifferという商品、米国ではイノベーティブな製品が開発された代表的な事例としてよく取り上げられています。

 

ただ、このSwifferってどんなものか見てみると、どこかで見覚えのあるような・・・花王さんのクイックルワイパーとほぼ同じような商品のようです。そして、もう少し調べてみると、クイックルワイパーの発売年度は1994年、Swifferの発売年度は1997年のようで、Swifferが本当にイノベーティブな開発事例なのかに疑問をもったのですがどうなのでしょう。このあたりの経緯をご存知の方は教えてもらえると嬉しいです。

システム1に対応したコンセプトテスト

話は

 

【疑問1】

行動経済学によると人間の意思決定の多くはシステム1(速い思考=直感的処理)に支配されていると考えられている。しかしながら現在のコンセプトテストはシステム2(遅い思考=分析的処理)による評価を得るものになっているのではないだろうか。それでコンセプトの将来性を正しく予測することができるだろうか?

に戻ります。この疑問を持つようになったのは最近、System1社(旧名BrainJuicer社)が2014年に行った

Death of the Traditional Concept-Birth of the VisiCept!

というWebinarを見たからです。

 

これまでも何度か紹介させていただいておりますが、かつてBrainJuicerという社名であった英国のSystem1社は世界で最もイノベーティブなリサーチ会社だと評されることが多い会社です。数年前に社名を変更しリブランディングを行ったのは衝撃的でしたが、これは従来のリサーチ手法に疑問を抱き、人間の行動はシステム1に左右されているということをベースにしたリサーチ手法を発展させたいという同社の決意の表れだと理解しています。

 

このSystem1社はPredictive Marketsという定量的なコンセプトテストからの売り上げ予測モデルサービスを展開しており、過去に30,000以上のコンセプトを評価した経験があるそうです。そして、このサービスを利用してアルコールカテゴリーの17の製品に関して上記のような3種類のコンセプトを作成し実際の売上と照らし合わせた検証を行ったとのことで、そのファインディングスをこのWebinarで発表しました。

 

それによると、同社は開発初期のコンセプトスクリーニングテストにおいては従来型のコンセプトシートP(Traditional Conceptと同社は呼んでいます)ではなくQ(VisiCept)を使用すべきであると結論付けています(またローンチの最終段階に近づくにつれ、よりTVCMに近いR(AdCept)に近づくべきだとも語っています)。

 

「コンセプトテストでは、P:Traditional Conceptの評価が他の2つ(Q:VisiCept、R:AdCept)を上回ったが、我々は実際にはPは過大評価がなされたと思う。実際スペインのビールというのは、今どき、それほど珍しいものではないと思うがこのコンセプトシートで必要以上によく見えてしまったのではないだろうか。実際この製品が上市され、我々も売上をトラックしたのだが、売れ行きはガッカリするものだった。」

 

また

 

「今回検証した17の製品に関して、VisiCeptは評価の差、コンセプトの良い悪いの差(Discrimination)が最も大きく表れた。次いで、Traditional Concept、最後はAdCeptであった。そこで、特に初期段階でのコンセプトスクリーニングテストではVisiCeptを利用するのが適していると考えている」

 

すみませんが、私がこのWebinarを見て結論に至る論拠がイマイチ理解できなかったところがあり、またこのWebinarはポジショントーク的なものだと思うので、すべてをそのまま信じるつもりもないのですが、ただ

 

「従来のインサイト-ベネフィット-RTB(Reason To Believe)型のコンセプトに対して、それは上手く将来を予測できないというため息を多く聞く。人間の意思決定プロセスを理解している人ほど、従来型コンセプトはシステム2を重視した、理性的すぎて不自然なものだということを感じるはずである。」

 

という主張に関しては、非常に納得したのですが皆さまはどう思いますか。

 

なお、Predictive Marketsの検証結果を踏まえて同社はコンセプトシート作成のために重要なこととして以下の3つを主張しています。

※この主張はこのWebinarとここから抜粋してまとめさせていただいております。

 

<コンセプトシートのテキストにインサイトを含めるな!>

 

我々はビジネスにはインサイトが必要ないと言っているのではない。逆にビジネスを加速させるために非常に重要なものだと考えており、コンセプトはインサイトに基づくべきものだと考える。しかしながら我々はコンセプトシートにインサイトを含めないほうがよいのではないかと考えている。特に開発段階の初期ステージのテストでは・・・インサイトが非常に魅力的であってもそれを実現する方法が貧弱であったり、見つからなかったりするケースが多々あるというのが現実で、期待外れに終わることが多いだからだ。逆にコンセプト内の製品仕様や解決するアイデアが明確であれば、それが顧客のどのようなニーズ(インサイト)を解決するのかは明確になるのではないだろうか。少なくとも、我々の検証において、インサイトステートメントを含めたコンセプトシートと、含めないコンセプトシートを比較したところ、インサイトを含んでいないコンセプトシートの方が将来の市場シェア予測の精度があがったのである。コンセプトシート冒頭にインサイトを記述することは、雑音にしかならないというのが我々の考えである。我々のクライアントはインサイトを売るビジネスをしているのではない。インサイトを解決する手段を売るのがビジネスなのである。

 

<コンセプトシートに記載されるテキストは25単語前後が適切だ!>

 

従来型のコンセプトシートにおいては最大80単語がMAXだと言われているが、実際、その製品が上市された後、80単語ものプレゼンテーションピッチを消費者にする機会はあるだろうか?長いコンセプトシートは、読まれるのに時間がかかり、その分受容度もあがる。一方で我々のPredictive Marketsからの検証では長いコンセプトシートで受容されないようなコンセプトは短いコンセプトシートでも受容されないということがわかっている。また、これまで大ヒットした製品のコンセプトは平均より単語数が10%以上は短い結果であった。ただ、あまりに短すぎるのもよくなく20-30単語(25単語前後)が最も適切であるという結果となっている

 

注:25単語というのは、もちろん英単語のことです。上記のQ:VisiCeptの英語のオリジナルが丁度25単語前後なので、日本語の場合もこの程度の内容と考えればよいかと思います。

 

<必ずビジュアルを入れろ!>

私たちは読んだものより見たものを50%以上覚えている。そして適切なビジュアルはそのコンセプトのアイデアを迅速に感情的に伝えることができるのである。もしパッケージ写真があるのであれば、リアリティを持たせるために必ずコンセプトシートに入れるべきである。もし、無い場合も心配することはない。我々の検証ではコンセプトシートにパッケージ写真があるのとないのとでは、結果に大きな違いは見いだせなかった。しかしながらアイデアを表現するためのビジュアルはそのコンセプトのベネフィットに命を吹き込む。例えば、それは素材のイメージでもよいし、その製品がどのように使用されるかの簡単なスケッチでもよい(しかしながらコラージュや複雑な図は過負担となり避けるべきである)。このビジュアルを利用するということはコンセプトシートのテキストを25単語前後にするというのにも役立つであろう。

 

 

ちなみに、Pからビジュアルを取り払ったコンセプトシートを用意してみました。現在コンセプトテストに使用されるコンセプトシートは多くの場合このような形式のものが多いのではないでしょうか。ただ、皆さんは自分が対象者だったとしたら、このようなコンセプトシートを見せられて自分が実際にビールを買う時の気分や感情になりますか?

コンセプトテストでイノベーティブな製品アイデアを殺さないために

続いて

 

【疑問2】

現在のコンセプトテストは、クライアントが考えたイノベーティブな製品アイデアを殺してしまうのではないだろうか?

 

ということについて考えてみます。

 

定量的なコンセプトテストにおいてイノベーティブな製品アイデアを殺さない方法については楽天インサイト株式会社顧問の三木氏が以下の記事で詳しく説明しておられるので、そちらをお読みいただくことをお薦めします。

 

三木康夫によるマーケティングリサーチ概論:第36回 商品開発とマーケティング・リサーチ(MR)(2)

 

ちなみに、定量的なコンセプトテストでは購入意向と共にユニークネス(独自性)の指標も大事だと言われており、皆さまもコンセプトテストの調査項目にユニークネスを取り入れ分析をされていることかと思います。私もそうなのですが、これまでユニークネスの評価が高いコンセプトに関して、そのユニークネスが「単に奇をてらっただけのユニークネス」なのか「時期尚早なためユニークネス」なのか、どのように見分ければよいのかずっと疑問を持っておりました。皆さんはご存知でしたか?私は、この記事を読ませていただいてその疑問が解決しました。

 

ただ、この記事に書かれているのは定量的なコンセプトテストでイノベーションを殺さない方法であって、イノベーションを見つける(選び出す)方法ではないと理解しています。コンセプトテストからイノベーションを選び出すことはできないのでしょうか?機会があればお聞きしてみたいです。

 

続いてグループインタビューに代表される定性調査でイノベーティブなアイデアを殺さない方法ついて、先に紹介したGianfranco Zaccai氏の記事内にある主張を紹介します。

 

なお、Zaccai氏はSwifferと並んで、リーボック社の革新的なバスケットボールシューズ、Reebok Pumpを開発したことでも有名です。Reebok Pumpは1989年にリーボック社から発売されたイノベーティブなバスケットボールシューズで、足首のまわりを内部膨張メカニズムで固定するというユニークな特徴をもった現在も人気を誇っているシューズです。それを踏まえて下記をお読みください(なお下記はZaccai氏の主張の意図は曲げないように一部脚色編集しております)。

 

  1. その製品を使う場面だけではなく、その製品に係わるすべての経験について考えろ!

    多くの住まいのお手入れ品を製造する日用品企業は、例えば床の掃除という行為だけに注目する。我々ContinuumがSwifferのオリジナルのアイデアを開発した際には、床を掃除する製品に関して購入、使用、洗浄、保管、廃棄といったすべての側面に注目した。このような追加のリサーチは真にゲームチェンジングな製品を生み出すことにつながる場合がある。我々が開発したReebok Pumpに関しても、選手のコート上の経験だけではなく、母親が息子の成長が早いので数か月ごとにシューズを買い替えなければいけないという点や、シューズがフィットしなかったためにバスケットボール選手が怪我をすることが多いという点に注目して画期的なアイデアが生まれたのである。

     
  2. 新製品は実際の使用シーンでテストしろ!

    単にアイデアが優れているからと言って、人はそれを見たり聞いたりしたときに喜んで飛びつくわけではない。あなたは、それをコンテキスト内(実際の使用シーン)で、実際の製品ターゲットとなるべき人々でテストしなければならない。私たちがReebok Pumpを開発した際、多くの人々は最初そのアイデアを笑い飛ばした。リーボックのブランドマネジャーは、そんなニーズはグループインタビューでこれまで聞いたことがないと一蹴したし、高校のバスケットボール選手も「冗談でしょ」といって笑った。しかしながら、その選手たちにプロトタイプのモデルを渡して実際に使用してもらったところ、「なんてクールなんだ。これだと怪我しない」と、その評価は一変したのだ。

     
  3. リスクを負えるリーダーを巻き込め!

    Reebok Pumpは、真のイノベーティブなコンセプトを理解することができたリーボック社の社長がGoサインを出さなければ絶対に製品化はされなかったであろう。結局は、イノベーティブな製品を世の中に出すためには単に定量調査による収益予測モデルやグループインタビューにおける対象者の発言からだけでは製品化をする決定は下すことはできないのである。もしあなたがリーダーであるならば、リスクを負うことを恐れない勇気と、この製品を上市することが世の中にとって正しいことだという直感や信念みたいなものに基づいて決定をしなければならないのである。もしあなたがリーダーでないのであれば、そのようなことができるリーダーを見つけて巻き込まなければならないのである。

 

以上ですが、Zaccai氏の主張を裏読みすると、

 

「定性的なコンセプトテストでイノベーションを殺さないためには、紙に書いたコンセプトシートによるコンセプトテストをしないのが最善策である(もし、コンセプトをテストしたいのであればプロトタイプを作れ)」

 

という身も蓋もないようなことを言っているように思えます。皆さま、特に定性調査の専門家の方はこの主張に同意されますか? 

 

今回は、皆さまが日々、実施されているコンセプトテストについて、

 

【疑問1】

行動経済学によると人間の意思決定の多くはシステム1(速い思考=直感的処理)に支配されていると考えられている。しかしながら現在のコンセプトテストはシステム2(遅い思考=分析的処理)による評価を得るものになっているのではないだろうか。それでコンセプトの将来性を正しく予測することができるだろうか?

 

【疑問2】

現在のコンセプトテストは、クライアントが考えたイノベーティブな製品アイデアを殺してしまうのではないだろうか?

 

 

という2つの疑問について考えてみました。そして、これらの疑問について、私は明確な答えは見つけ出せていないというのが正直なところです。皆さまは、いかがでしょうか。クライアントから、

 

「グループインタビューやネットリサーチでコンセプトシートを評価するようなテストの結果は信じられない。一般人に見たこともないものを評価しろといっても出来るわけないだろう!」

 

と言われたら、どのように反論しますか?

 

我々リサーチ業界の人間にとってコンセプトテストと言えば、時間に追われ、グループインタビューの実査直前にクライアントから届いたパワーポイントを印刷し呈示物として準備することや、パワポをjpeg化してのネットリサーチの画面にアップしたりすることだけが仕事になってしまってしまうことも多いかと思います(苦笑)。

 

しかしながらリサーチ不要論者から「リサーチは役に立たない」と言われないために、そしてクライアントのイノベーションを殺してしまう殺人者にならないために、たまには一休みして普段何気なく実施しているコンセプトテストについて、じっくりと考えてみる機会があってもよいのではないでしょうか。

 

本記事がそのきっかけになれば幸いです。

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